ジブリ実験劇場「ON YOUR MARK 」にみる私達の道⑪

ニュース体験.jp / 社会 , / 公開日:2015/07/30

『希望は、広大な空へ』

明るい地上の世界を駆け抜ける車。2人は笑顔だ。地上の美しい姿に驚愕している様子はあまりなく、すでに見たことある世界だったと思える(解釈上は、解放作戦の前に解き放つ場所を探しに来ていたから)。そしてあの巨大廃棄原発を越える。そろそろというところで、まだ怯えていた少女に、チャゲが少し手を引き、やさしく言う「さあ。」

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手を引かれ、少し立とうとする少女。それまで腕をすくめて座っていた少女は、少し立ってから、それとほぼ同時に何かを見つけたように自然と立ち上がる(途中からむしろ自発的に見える)。まだ躊躇があるみたいで飛ぶまでは少し止まりますが(飛鳥が「どう?大丈夫?」と少し顔色を伺うシーンも)、チャゲの手に添えられながら、飛ぼうとしてみます。少女は少しまだ飛ぶのに不安定ながらも、前を向く。

そこで彼女は、何かを見たようです。sw

少女は何を見たのだろう?目を見開き、驚いています。目線は遠くを見ています。そしてゆっくりとやさしく、2人に微笑みかける。怯えていた少女の顔から、何か見守るような目に変わった瞬間でした。
飛鳥は、大丈夫だ、とウインク。チャゲは、さあ、飛んでいきな、じゃあね、と。全地球全世界の願い希望を、人の侵略から放てたと言うことでしょうか(なんと、人の手で)。「放した瞬間に、心の交流がちらっとあったかもしれないけれども」と監督(アニメージュVol.206)。本当にちらっとだけですが、「ありがとう」という表情だったと思っています。

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そして笑顔でその先へ飛んでいく。高く高く、空の向こうまで。大きく羽ばたいていく。誰も手の届かないところへ。(それは彼女らしい場所へ、本来あるべき所、姿への回帰でもあったでしょう)
大空を飛んでいく姿からは、何かが実現された、叶ったような解放感で満ちています。

 

[続ナウシカ解: 地上の緑を見たナウシカは、目を疑う。ああ、あの世界が、1000 年余のときを経て、ここまで回復したのだと。もちろん、それでも直面している汚染は気づいているはず。だからこそ、ナウシカもまた、巨大廃棄原発と対称として見える、“何か”に驚き、そして“安心”したのだと思います。何を見て安心したかは、続ナウシカ解としても後述するものと同じだと考えています。メーヴェでナウシカが舞い上がるように、翼を広げて何処までも何処までも飛んでいきます。これは果てしない解放感です。結局ナウシカは原作でどこまでも囚われ続け、戦い続け、苦悩し続けました。最終話でさえも、彼女はこの腐海や粘菌に侵食されていく世界において、解放されることを拒み、苦しい道(しかしそれでいて生命のあるべき生き方で生きる道)を選び、大きな解決策も無くこれから生きていかねばならない終わり方でした。(それでも正しかったと思います。ダーウィンの進化論にもある通り、新型も旧型も本来存在しない、明確な区別もつけられない。神が生命を生むものでもない。環境に合わせて長い年月をかけて生きていけるように生きていく。私達もきっと、そうあるべきでしょう)

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既述のとおり、ON YOUR MARK はナウシカの連載が終わった1 年後に上映されています。10 数年に渡る連載だった訳ですから、宮崎駿監督にとってもまだナウシカは頭の中で苦しみながら必至に生き続けていたでしょう。監督は、この場を借りて、ナウシカを解放してあげたかったのだと思います。あんなにも明るい日差しを浴びて、すがすがしい笑顔で大空を飛ぶナウシカは今までいませんでしたから。ON YOUR MARK は、そんなナウシカへの監督からの恩返し、餞(はなむけ)でもあったのだと思います。この、ナウシカの未来に光がある、そんな想像ができることが、私の中でも外せなかったので翼の生えた少女=ナウシカ をしっかりパラレルに押さえておきたかったというのが本音です。]

※ここで続ナウシカ解釈は終了します

少し脱線しますが、あの後ろに見える都市は何なのか。これも見解は分かれると思いますし幅を持ちたいのですが、私が思うには、多分、あそこも無人都市のように感じます。以下が理由です。まず例の廃棄原発らしきものがさらに2つ描かれていること(チャゲの手から離れてから走った距離を考えても右側の廃棄原発はまた別物です)。相当広範囲に汚染は広がっています(人が住めるようになるには200~1000 年のときが必要なわけで、大きな罪を犯したわけです)。そして後ろの摩天楼ですが、一つ、傾いているビルがあります。まあ、こういうデザインのビルがあっても良いかもですが…なんか不自然です。監督があえて入れておいたとしか思えません。さらに言えば、高層ビルというものは多くが窓ガラスを用いますし(その為空の色が反射して映る)、壁も新宿や汐留、六本木を見てみても白銀や紺などが多いように思いますが、描かれているのは皆揃って茶色です。ここから察するに、向こうの都市こそ原発付近の集落よりも前に無人化して非常に長く、錆びたり風化した状態になっているのだと思います。もしかしたら元々奥に見える都市の住民が移動し、あの地下都市に住んでいたのかもしれませんね。

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そして2 人は。アクセルは止まり、そのまま、田んぼの畦道からずれるように曲がっていく。frfr

「きっとまた彼らは警官の仕事に戻るんです。戻れるかどうか知らないけれど」ON YOUR MARK のその後についての監督の言葉です。あくまで解釈ですが、やはり2 人は放射性物質を吸い込み、内部被曝してしまったのだと思います。高濃度であれば、時間はあまりにも短いものです。それでも彼らは覚悟していた。少女が飛び立つまで、変わらず、むしろ心底満足そうな表情で。この結末は彼らはもう予測していたと思います、どの道死ぬんだと。でも、「俺達こんな無謀な挑戦しちゃってるよな、いやー、バカだよなあ」って言い合いながら、でもすごく充実してたのだと思いますし、最後はこの上ない満ち足りた気持ちになったことでしょう。
天使を、もう誰にも囚われることのない彼方へ飛ばせてあげられた。2 人は、きっと空を眺めながら、笑顔で横たわったことと思います。

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