ジブリ実験劇場「ON YOUR MARK 」にみる私達の道⑦

ニュース体験.jp / 社会, / 公開日:2015/07/30

少女の定義が終わったところで、もう一度ムービーの流れを紐解いて行きたいと思います。なぜ聖NOVA’Sに少女がいたのか、軟禁後、意識もせず捨てられると言ったようなことになったのか。きっと教団とっての希望もはじめは例の希望を抱いていたのではと想うのです。汚染を受け入れ、その上で生きる方法を得るための実践をしてきたのですから、「今の環境を受け入れて、生きる」という、全の希望に近かった。
ジブリ実験劇場「ON YOUR MARK 」にみる私達の道⑥はこちら

スポンサーリンク


ただしその信念や実践は、次第に、他との係わり合いの中で、自分たちが生き残るためであったり、自分たちの行動を否定するものを否定する、武装し排斥すると行った誤った方向へ進んでしまったのではないでしょうか(そもそもDNA を破壊する程の放射線は極めて人為的であり生態系に大きな影響を与えうる存在です。ちなみに脱線すると耐えうる放射線量は鶏は人間の2.5 倍、ゴキブリは100 倍だそうです)。「共に生き続ける」からすれば相当曲げられ痛めつけられたものに変貌したと言えます。そしていつしかポイ捨てされる空き缶のように、いつ捨てたかわからないけれど自然と捨てていたものになっていたのでしょう。
警察の一員として2人も教団の全滅に携わります。現場で任務を全うしながらも、数多の人命の全滅の姿を目の当たりしながら、2人は感じていました。これが正解なのだろうか、と。自分たちの頭の中ではうっすらと切実な何かが浮かび上がっていたのかもしれません。「どうしたら争いが終わるのか」と。だからこそ、彼ら2人が、教団のビルの中で辺境の場所に置かれた、翼の生えた少女(希望)に気付いたのでしょう(入る瞬間はなぜか、“フェード”で入ります。ただの演出、と考えたら終わってしまいますが、ここは誰でも物理的に入れたというよりは、切実な何かを感じたからこそ、あの部屋にすっと入って来れたのかもしれません)。あのシーンで少女にスポットライトが当たっていますが、あれは実際にそういうライトがあったと言うよりは、2人にとって天から降る一筋の(希望の)光のようなものだったということでしょう。
33
 

『特に理由も分からないが、とにかく救いたいという想い 』

彼女自体を見つけることが警察隊の目的ではないことは、全滅確認をするところや2人の少女発見時の様子などを考えても明らかです。もしも彼女を見つけることが目的ならば、仲間に「ここにいたぞ!」と伝えるはずですから。そんな彼女を見た直後、シーンは突然車で3人で飛び出す様子へ変わります。これが曲のサビに行くために前衛的な画を使いたかった、みたいなことを言われたらあまりにも元も子も無いのですが、ここでも理由を考えます。前述の通り、この少女は、希望です。彼ら2人は、何かまだハッキリ分からないけれど、それでも自分たちにとって失いたくない大切な何かだと気づいたのかもしれません。論理で考えたものではなく、本来生命みんなに根付いている本能的なものとして、あくまで直感的に。そしてその希望が限りなく憔悴した姿にされてしまっていることを感じ、「解き放ちたい」と脳裏に直感で浮かんだのでしょう。

スポンサーリンク


なおここの場面はムービー終盤のシーンと同様と見えますが実は違います。ラストで走る道は原発沿いの道であるということもそうですが、柵も老朽化してませんし、少女の飛び立つ変遷にも違いがあります(このシーンではチャゲに両手で持ち上げられて飛びますが、ラストではチャゲの右手は添えるだけ、少女は怯えながらも少しずつ自分で立つ)。終盤については後述しますが、少なくともこのシーンではあくまで2人の頭の中のイメージでしかないのです。
44
上記のシーンを見ていただいても分かる通り、始めは少女に翼がありません。チャゲが解き放つときにその大きな翼が突然生えます。これは今飛べないものを、自分たちで飛ばしてあげたいという気持ちから直感的に出たもの(頭の中のイメージ)だからでしょう。
頭に浮かべたシーンがこれな訳ですから、地下都市で住む彼らにとって地上がそういう存在なのだということが垣間見えます。やはり彼らも今の地下の暮らしが当たり前とは思っていないのです。本当にありたい姿ではないのでしょう。本当は本来の地上で、日の光を浴びて、空気を存分に吸って生きたいのです。そして脳裏の場面からもう一度実際の場面へ戻ります。彼ら2人は少女が無事かどうかを確認します。これも無意識なのか、放射性物質をケアしていたはずのマスクを取ってまで見つめます。前述のとおり、うっすらと持っていた希望をしっかりと見つけたのです。(実際は教団の人間も常に高濃度の放射線を浴びられるような体では無かったでしょうから、室内もすぐ致命的になるような放射能は無かったと思います。)翼の生えた少女は見るからに衰弱しきっていて意識すらない危険な状態。少女の体を案じ、2人は警察隊の中の救急所あたりなのか、彼女に栄養ドリンクのようなものを与えます(この容器はナウシカで出てくるものと同じ)。すると彼女はそれを飲みだし、意識がまだあるぞ!と2人は喜びます。「共に生きよう」希望はまだ、残っているのです。
ジブリ実験劇場「ON YOUR MARK 」にみる私達の道⑧はこちら

注目の投稿